疫学Q&A 第1回 ~疫学の研究手法について~ その1

【問 題】
以下は「記述疫学」に関する説明である。正しい組み合わせはどれか。

a. 記述疫学では問題発生や疾病とその原因についての因果関係を直接証明することは難しい。
b. 記述疫学研究を実施する際の評価の指標として、オッズ比がある。
c. 記述疫学の三要素のうちの一つは「病原体」であり、その特性を詳細に調べて疾病や問題発生との関連を推定するために用いられる。
d. 記述疫学の三要素のうちの一つは「時間」であり、疾病や問題発生の経時的パターンを把握するために用いられる。
e. 記述疫学の三要素のうちの一つは「場所」であり、疾病や問題発生の地域的な分布を知るために用いられる。
1.aとc  2.bとd  3.cとdとe  4.aとdとe  5.該当なし

【答え】  4.
a.正しい。記述疫学の目的は問題解決に向けた最初の仮説の設定であり、因果関係の証明ではない。厳密な意味での因果関係を検討するためにはより分析的な手法、あるいは介入研究まで実施する必要がある。
b.オッズ比は分析疫学等で用いられる指標である。相対危険度の近似値である。
c.記述疫学の三要素は「宿主・場所・時間」である
d.正しい。
e.正しい。
【解 説】
記述疫学は種々の問題解決に向けた最初のステップであり、疫学研究の中で最も基本となる研究手法である。その目的は疾病や問題発生の頻度と分布のパターンを観察、記述し、関連する要因や原因についての仮説を立てることである。記述疫学では、「宿主・場所・時間」の特性を念頭に観察を行ない、これらを「記述疫学の三要素」と呼んでいる。
「宿主」(獣医疫学ではヒトも動物も対象になりうる)ついては生物学的、社会学的特性を把握する。生物学的特性については、ヒトと動物で共通のものとして個体の性別、年齢、栄養状態などがあり、動物の場合さらに品種や系統などが挙げられる。社会学的特性については、ヒトの場合には生活水準、教育水準、職業、宗教等が、動物の場合は飼養目的や飼養環境等も挙げられる。これらを用いる事により、宿主の特性による発生パターンを把握することができ、原因や伝播経路についての仮説を立てることができる。
「場所」については、疾病や問題発生の地域的パターンを把握する。ここでいう地域とは、市区町村~県~国といったいわゆる行政単位のこともあれば、ヒトの場合であれば学校内、家畜であれば農場内の発生地点といった場所も想定される。設定した単位の中で発生に一定のパターンが生じているようであれば、それは原因究明に向けた重要な情報となる。
「時間」については、疾病や問題発生の経時的なパターンを把握する。経時的なパターンには、病原体への暴露から発症までの潜伏期間や再発までの間隔、生産や繁殖成績における週単位での発生の変動といった比較的短期間なものから、季節ごとのサイクルがある季節変動、数年ごとにサイクルがある循環変動、数十年にわたる長期変動などがある。また、疾病流行のパターンは、時間をX軸に、発生数や摘発数をY軸にプロットしてつなげた流行曲線よっても記述できる。流行曲線は、感染症によって「流行型」、「常在型」、「散発型」、「汎流行型」などの特徴的な形をとることが知られている。疾病や問題発生の経時的な変化について一定のパターンを見ることができれば、関連する要因や原因について検討する際の重要な足がかりとなる。
記述疫学の目的は、前述のとおり疾病や問題発生のパターンを観察、記述し、仮説を設定することであり、効率的な問題解決のためには適切な仮説が必要であることから、「疫学は記述疫学に始まり記述疫学に終わる」とも言われている。記述疫学によって立てられた仮説については、より分析的な手法で検証を行う。これを「分析疫学」と呼び、「横断研究」、「症例対照研究」、「コホート研究」などの手法が知られている。

なお、記述疫学のより詳細な説明や実例については、獣医疫学会編「獣医疫学-基礎から応用まで-」(近代出版、ISBN4-87402-108-5)の75~88頁を参照されたい。