疫学Q&A 第9回 ~誤差とその制御について~

【問 題】
以下の疫学研究における誤差に関する説明について,正しいものの組み合わせはどれか。

a. 偶然誤差の発生自体は人為的に制御できない。
b. 系統誤差(バイアス)の大きなデータは,標本数を増やすことによってその質を高めることができる。
c. 思い出しバイアスは選択バイアスの一つである。
d. データの交絡を是正する手法の一つに,多変量解析がある。
e. 疫学研究においては,データの精度とデータの正確性は同じ概念である。

1. a とc   2. a とd   3. b とd   4. c とd   5. d とe

【答え】 2.
a. 正しい。
b. サンプル数を増やすことで制御可能なのは偶然誤差である。
c. 思い出しバイアスは情報バイアスの一つである。
d. 正しい。
e. 精度は偶然誤差,正確性は系統誤差の程度を示す概念である。


【解 説】
 因果関係とは、原因とそれによって発生する結果との関係である。単一の原因で結果を説明できることもあるが(例えば、コッホの条件にもとづく単一病因論(病因一元論)の立場)、今日遭遇する諸問題には、宿主・病原体・環境のより複雑な相互関係を踏まえて因果関係を検討する(多重原因論(病原多元論)の立場)ことが一般的になっている。その際、原則的には、関連の時間性、強固性、一致性、整合性、特異性、および統計学的関連性に留意し、総合的に検討していく必要がある。
因果関係のより詳細な説明や実例については、獣医疫学会編「獣医疫学-基礎から応用まで-〈第二版〉」(近代出版、ISBN978-4-87402-179-8)の65~68頁を参照されたい。
 測定値や推定値と,その真の値との間に生じるずれを誤差と呼ぶ。疫学研究においては収集されるデータは野外から得られることが多く,体重や野外検体のELISA 値等の定量的なデータ,あるいは「はい・いいえ」,「陽性・陰性」等の定性的なデータでも,それらに誤差が含まれることは避けられない。このようなデータの分析にあたっては,誤った結論を導かないように,誤差を含むデータを慎重に取り扱う必要である。
誤差は偶然誤差(ランダムエラー,ともいう)と系統誤差(バイアス,ともいう)に大別される。偶然誤差は他の要因等と関係なく偶然に起きる誤差で,発生自体を人為的にコントロールすることはできない。ただし偶然誤差は,例えばサンプル数を増やすことによってその程度を小さくすること,すなわち「精度」を上げることが可能である。一方,系統誤差は何らかの原因により,データが常に一定の方向に歪められることによって起こるすなわち,何らかの要因によって起こる誤差のことを指し,選択バイアス,情報バイアス,誤分類,交絡等に分類される。したがって,疫学に関連する調査研究を実施する際には,できるだけ系統誤差の発生を制御した計画を立案し,得られるデータの「正確性」を確保する必要がある。一方,計画段階からすべての系統誤差を除去することも通常は困難であるため,層別解析や多変量解析など,データ分析の段階でそれらを制御する場合もある。なお上記のように,疫学においてはデータの精度と正確性は異なる概念であり,それぞれ偶然誤差,系統誤差の程度を示す。
 疫学研究における誤差とその制御についてのより詳細な説明や実例については,獣医疫学会編「獣医疫学―基礎から応用まで―〈第二版〉」(近代出版,ISBN978-4-87402-179-8)の69~74 頁を参照されたい。


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